第28回スペインギター音楽コンクール2010/10/11 01:40

去年は聞きに行かなかったが、今年は招待券をもらったのもあり、本選だけを聞いて来た。演奏順にちょっとした感想を書いてみよう。

最初に弾いたのは松澤結子。
課題曲の詩的ワルツ集がとても速い。しかし細かい音は鳴り切っていず、ホールの観客席には聞こえて来ない。間近で聞けば聞こえたのだろうか。それと、思いっきりの良い演奏には好感が持てたが、最強音は基本的にみな、つぶれて聞こえた。少しゆっくりした速度で、ていねいに全ての音をしっかり出す練習をやっているのだろうか? 基本的にとても好感の持てる演奏だけにおしい。

次は小暮浩史。
しっかりと「小暮節」を聞かせてくれた。彼も結構速めのテンポ設定だが、全ての音がクリアに聞こえてくる。今回、他の演奏者に彼が差をつける事が出来たのは、こうした速い動きの際の音のクリアさが大きいだろう。またアーティキュレーションもきっかりとしていて、実に小気味良い。これでもう少し柔らかい部分があったり、繰り返しの際にもっと工夫があったりしたら最高なのだが…。ただ、それを差し引いても、彼と他の演奏者の差は大きかったと思える。

次に弾いたのは原秀和。
課題曲はちょっとおとなし過ぎる演奏で、速い部分も全ての音がかすかに鳴っているような印象を受けた。自由曲の《グラン・ソロ》はアグアド編。元々に比べて弾きやすい版だと思うが、細かい音が結構いいかげんなところが多かった。全体におとなし過ぎる、あっさりした表現もどうだったのだろう。

後半は菅沼聖隆から。
詩的ワルツ集を皆速く弾き過ぎる中で、彼はいわば、ちょうど良い感じの速度で演奏した。速く弾きすぎて細部が全然聞こえなくなるよりは、これくらいの速度の演奏の方がずっとよい。ただ、ちょっとぎこちない、あるいはあどけない演奏に感じる。他の人が見せるような情緒が足りなかったのが残念。《グラン・ソロ》もしっかりと弾いていたが、アーティキュレーションがなさ過ぎる感じを受けた。

次は佐々木勇一。
速い部分の細部が比較的よく聞こえるが、速すぎて元々の拍とは全然違う形になっているところがあったり、音がかなりダンゴになったりしていた部分が気にかかった。ただ、気迫という点ではかなりあった。比較的ミスは少なく、きっちりと決めるところは決め、それなりにダイナミックもある。惜しむらくは、一音一音のていねいさがあまり感じられなかったこと。何と言うか「出しっ放し」の音が多く、音を出してからそれをコントロールすると言う意識がないように聞こえた。

最後は秋田勇魚。
課題曲ですぐ、彼が他の出場者よりも音楽的だというのがすぐに分かった。スケールの乱れなどがなければ、課題曲では一番の出来だったかもしれない。しかし自由曲になってから何かがおかしくなった。《ファンダンギーリョ》でイージーミスを繰り返し、次の《ロンデーニャ》では途中で完全に弾けなくなり、右手を振ってはまた弾こうとする。どうやら右手がつったようだ。その後、どうしても弾けないので、ラスゲアードを利用して一応曲を終わったように見せた。そして立ち上がり、ふらふらとそでに引っ込む途中で、彼はギターを持ったまま倒れてしまったのだ。
幸いその後すぐ正気になり、後で話した際には、ちょっと疲れているけどもう平気だと言っていた。極度の緊張から来たパニックだろうか。出場者の中で唯一、小暮に対抗出来そうな人材だっただけに残念だ。今回の出来事はすっぱりと忘れて、また次に励んで欲しい。


さて、課題曲、自由曲をそれぞれ100点満点で考えて、順位を付けてみた。その独自順位はこれ。

1位 小暮浩史(70+75=145)
2位 佐々木勇一(47+50=97)
3位 松澤結子(50+45=95)
4位 菅沼聖隆(48+41=89)
5位 原秀和(45+40=85)
6位 秋田勇魚 (62+-=)

しかし実際は

1位 小暮浩史
2位 佐々木勇一
3位 菅沼聖隆
4位 原秀和
5位 松澤結子
6位 秋田勇魚

松澤結子だけ、私が考えたよりも下に来てしまった。確かに、細かい音はほとんど、いかにも弾いているように見せる、といった弾き方だったので、この順位は仕方ないかも知れない。それでも私には、彼女の演奏、いや表現が、菅沼や原より、下手すると佐々木よりも魅力的だった。是非もう一度、今度はもう少していねいな演奏を聞いてみたいものだ。