2012年第37回GLCコンクール2012/08/07 21:58

今年は本選のタイムキーパーだったので、じっくり聞いて、しかもメモを取ることが出来た。そのメモを元に雑感を。まずは結果をざっと書こう。

小学生低学年(1~3年生)
1位 石井 嘉人
2位 降旗 友也
3位 井野 慧子       

小学生高学年(4~6年生)
1位 原田 斗生
2位 坂本 和奏
3位 近藤 祐月         

中学生
1位 飯野 健広
2位 藤原 開人
3位 片根 柚子
         
高校生
1位 菅沼 聖隆
2位 星野 瑞紀
3位 中村 朔也

大学生
1位 門馬 由哉
2位 伊藤 亘希
3位 森 湧平

もっと詳しい結果が、GLCのHPにある。
http://glc-guitar.com/competition/performers/2012.html


低学年、一位の石井は、ビーニャスの独創的幻想曲を弾いた。正直、トレモロもアルペジオもまだ指ができていなくてダメだったが、かと言って他の人ができたかというと、それぞれが自由曲なのでわからない。他の人達はもっとずっと易しい曲に挑んでいたのだ。彼は一番難しい曲に挑んで、細かいことを抜きにすると、それなりのエンターテインメントを作っていた。それが評価されて一位だったのだろう。二位の降旗は、ヴァイスのシャコンヌを良い音でしっとりと歌い上げていた。ただちょっとミスが多かったのが難点。三位の井野はサグレラスのマリア・ルイサとコストの舟歌を弾いた。他の二人に比べるとかなり素っ気ない演奏だったが、逆に素直だったとも言える。この三人にこういう順位がついたのは妥当だろう。

高学年になると、とたんに良い音を出す人が多くなる。一位の原田はパガニーニのソナタOp3-6を見事に弾ききった。歌い方が全体にドラマティックで、これ以上やったら大げさで下品に成りかねない、ギリギリな感じ。彼はこれからが楽しみだ。二位の坂本はスカルラッティのソナタK380を優雅に弾いていた。アーティキュレーションもなかなかしっかりしていてよかったのだが、トリルの最後が毎回同じようにもったりとしてしまうのはどうなのだろう。あれだけ何回もあるトリルを同じようにもたつくのは、最初からそう練習しているからだと思われるが、有名な演奏家達がどんな風にトリルを弾いているのか、少し聞いてみたほうが良いかもしれない。ウォルトンのバガテルから一曲目のアレグロを弾いた三位の近藤は、フォルテになると音が汚くなりすぎるのが気になった。またあちこちで不必要に間を空けすぎで、音楽が流れなかった。

中学生で一位になった飯野は、ドメニコーニのトッカータインブルーを弾いた。ダイナミックでくっきりした演奏で、この曲の雰囲気をよく掴んでいたと思う。ただ、最後の盛り上がりが今ひとつだったのが残念だ。二位の藤原はブローウェルのソナタから第2,3楽章を弾いた。2楽章はふくよかな音で見事に弾いていたが、3楽章になると、はっきりしない、鳴り切らない音が多すぎたように思う。その点、一位の飯野は速くなってもすべての音をはっきりと響かせていた。三位の片根はメルツのハンガリア幻想曲を弾いたが、最初のフォルテで力みすぎたのか、いきなり破裂したような音で始まってしまった。その後はもっとコントロールが効いていたが、それでもフォルテになってくると音が割れるときが多々あった。ただ、音が割れることを恐れてか、最後の方は消極的なクレッシェンドになってしまい、それはそれで印象が悪くなったかもしれない。

高校生の一位となった菅沼はなかなか聴き応えのある演奏だった。選んだのはトロバのカスティーリャ組曲の第三曲、そしてトゥリーナのセビリア幻想曲。カスティーリャ組曲の第三曲をこれだけテンポ感良く弾くのは、初めて聞いたかもしれない。ひとつだけ苦言を呈するなら、きれいなフォルテと汚いフォルテの使い分けは今ひとつだったこと。セビリア幻想曲などは、しばしば音が割れても良いから思いっきり弾いた方が良い部分があると、私は思うし、彼もそれをやっていた。しかしここのフォルテで音が割れるのはちょっと、というところでも、ときどき同じように突っ走りすぎていたように思う。

一位の菅沼が例年の高校生レベルで考えると非常に上だったのに対して、その他の人たちはむしろ例年より低いレベルだった。ソルのグラン・ソロを弾いた二位の星野は、メカニズムが不安定なところをそれなりに見せた上で、さらに途中で忘れたりもしたので、普通なら三位にも入らなかっただろう。他のコンクールだと、空位というのが結構ある。二位なしの三位が二人とか。GLCはそういう方式を採用していなかったので、今回は一位から三位まで出すこととなったが、そのようにしてはダメなのかという話が実際にちょっと出たのは確かだ。

大学生の一位となった門馬は、ロドリーゴのファンダンゴ、リョベートのスケルツォ・ワルツを持ってきた。このスケルツォ・ワルツは非常に見事だった。ただ、その完成度に比べるとファンダンゴはかなり下と言わざるを得ない出来だったのが残念。二位の伊藤はヴァシリエフの運命を弾いた。実は私はこの曲を知らず、ストップウォッチを止めるのにちょっとヒヤヒヤだった。というのも、知らない曲なので、明らかにここで終わるのだろうと思ってストップしても、実はまた続いたりということもありえるからだ。それはさておき、なかなか変化に飛んだ面白い曲だった。バランス的に1弦がちょっとキンキンして、低音が弱く、フォルテがヒステリックに聞こえる、最高の見せ場でミスする、あちこちで小さなミスをするなど、数々の難点はあったが、全体の音楽は流れていてよかったと思う。三位の森はゲーラの5つのプレリュードより波のサンバを弾き、これもまた良い演奏だった。ただ森が割りと単色の、ひとつの世界を作っていたのに対して、伊藤の創りだす世界観ももう少し多様だった。それが二位と三位を決めた要素だったのかもしれない。


さて、このように本選の審査結果が出てから、GLC賞は誰という話になった。GLC賞は各部門の一位の中から最優秀者に送られるのだが、実は今まで、なんとなく絶対的な基準があって、GLC賞を出さないことが何度かあった。しかしその「なんとなく絶対的な」という基準がはっきりしないので、そういう姿勢はいかがなものだろうという話があり、今年からは必ず出すこととなった。

そしてGLC賞を選出する際、考えられるのは菅沼と門馬のどちらかしかないでしょうという話になり、そこで多数決が取られた。その結果菅沼がGLC賞となったが、この二人の明暗を分けたのは舞台度胸なのかもしれないと思った。門馬は二曲目のスケルツォ・ワルツであれだけ良い演奏をしながら、一曲目のファンダンゴは今ひとつだった。それに比べて菅沼は、最初から最後まで自信たっぷりに弾いていたように思う。


最後にふと、こんな審査方法はどうだろうと考えたことがあるので書いておこう。GLCの場合、5人の順位を決めるのにその順位を書く。だから審査員が書く数字は1から5までだ。これをその倍の一位から十位まででつけて、各審査員の順位の平均を取ったらどうだろう。つまり、今年はレベルが低いと感じたら、最高位を六位、そこから順に七位、八位、とつけるわけだ。このシステムなら、最高位の人の平均が4点以内になっていなければ一位は空位とか、平均が2点以内の人しかGLC賞の対象とならないとか、明確な基準を作れそうな気がする。どうだろう?